指導案
音大を卒業後すぐに、丸5年間、大手音楽教室の財団本部にてシステム講師をしていました。
5年の間には、3歳児から高校生まで、グループレッスンから個人レッスンまで、
幅広く担当させていただいていました。
講師になりたての頃はバブルの時代もあって、同期の新講師は北海道から沖縄まで、
全国にそれはそれはたくさんいました。
講師認定テストに合格したのちは、数々の厳しい新講師研修が待ち受けていました。
特に研修の総仕上げともいうべき、大学卒業後の春休みに実施される一週間の宿泊研修は、
多くの同期生の中でも同じ地域の新講師ごとに、
全国から期間差で50人弱のチームとなって静岡県の研修所に集められ、
その50人弱のチームがさらに5〜6人のグループに分かれ、
泊まる部屋も一緒、研修の教室も一緒の仲間として、24時間一緒に苦楽を共にしたものです。
宿泊研修に行く前に既に2年間分のテキストの全ての歌を暗譜で弾き歌いできること、
レパートリー曲の把握、音名暗唱の弾き歌い等々が、地元での日帰り研修で叩き込まれていました。
研修を受ける私たちも大変でしたが、私たちを指導してくださる指導スタッフ(現役の先輩講師の方々)
は、卒業したての学生を、短期間でいわば使い物にしなくてはならないので
何十倍も大変だったことと思います。そんなことには思いも及ばなかった未熟だった自分を思います。
そんな涙と汗の宿泊研修は、5月開講に向けて朝9時〜夜9時までびっちりカリキュラムが組まれていて、
お昼の1時間と、途中30分の休憩が2回、以外はずっと楽器の前に座って弾いたり歌ったり、
ロールプレイをしたりでしたが、私たちが徹夜までして一番時間をかけて頭を悩ませたのが「指導案」です。
1時間の幼児科10人程度のグループレッスンを想定して、時間軸に沿って内容を考えてノートにまとめるのですが、
なにしろ全く現場を知らない音大生が、歌・演奏・アンサンブル・ソルフェージュ等々、たくさんの項目を
どうやって1時間に収めたらいいか、それぞれの時間配分は?など、とにかく雲を掴むような作業で
本当に数ヶ月後に、先生として生徒さんや保護者の方々の前に立てるのだろうか?
不安しかありませんでしたが、非情にも時は待ってくれません。まさにカウントダウンの崖っぷちの気持ちで
毎日を過ごしていました。こうして振り返ると、同世代の仲間と過ごしたあの一週間は、改めて、
音楽教室を主宰する今の自分の根っこになっているなと思います。
そして、自分自身もその音楽教室で育った身として、講師として過ごした5年間は、
別の角度から追体験をするような、不思議な、そして貴重な日々でもありました。
あれからウン十年の月日が流れましたが、今の私はグループレッスンはしておりません。
幼児の方から成人の方まで、全て個人レッスンです。
それでも、ウン十年変わらず作っているのは当時徹夜で泣きながら作成した「指導案」です。
幼児〜小学校低学年くらいまで、導入期の生徒さんには必ずお一人お一人に、
その日のレッスン内容をメモした指導案ノートを作っています。
今ではレッスン前の5分で書けるようになりました。
指導案を立てても、その日の生徒さんの体調や気分、またご自宅での練習状況や、いろんな条件によって
予定通りにレッスンが進まないことももちろんあります。でもそんな時にも、その場でベストな
対処ができるよう、臨機応変に、その時のお一人お一人に合わせたレッスンができるのは、
個人レッスンならではの一番良いところであり、そうしたレッスンができるためにも、
指導案という骨子は必須です。だいたいお一人平均1〜2年指導案を続けることになり、指導案を卒業されると
レッスンとしても一段進んだ内容になっていきます。
ノートはその1〜2年の導入期も俯瞰で振り返ることもでき、自分自身も良かったこと、気づいたこと、
反省点などが見えて参ります。
用を終えた指導案ノートは、もういらないといえばいらないのですが、どうしても捨てることができず、
実はウン十年前の、新講師として音楽教室で初めて受け持った幼児科の指導案ノートも、いまだにとってあります。
こうしてノートも楽譜も増え続ける一方です。
※写真は、スタジオMAWOの生徒さんたちの指導案ノート
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